季刊誌 駒木野 No.196
新年を迎えて
こころの訪問診療所いこま 院長 渡邉 任
水平線から昇る初日の出
職員の皆様、新年明けましておめでとうございます。この原稿を書いている11月末はコロナウイルス感染の第8波の入り口と言われていましたが、年が明け感染の拡大の悪い予想が外れていることを祈ります。職員の皆様も昨年中はコロナ禍のため例年以上の業務負担をおかけしたことをこの場をお借りして労わせていただきます。本当にお疲れ様でした。
さて私も駒木野病院の常勤を離れ、こころの訪問診療所いこまの責任者となって早3年と3か月が経ちました。病院を離れて地域医療に関わる中で新たな気づきや考えさせられることがたくさんあって良い経験をさせていただいています。職員の皆様にも一度ご報告させていただける機会を作れればと思っております。
自分の立ち位置が病院という場から移ることで視界というか物事のとらえ方に変化が出てきたような気がします。例えば入院一つも、病院に居た頃の自分と地域に出た自分で何か微妙な差が生じています。具合が悪いから、家族や周囲の人が困っているからと本人不在の入院決定も多かったかなと反省や、本人の生活に密着してみると入院でなくてもできることは、まだまだあるなと気付けるようになったりとか。
昨年の秋、国連の障害者権利委員会が日本政府へ精神科の強制入院を可能にしている法律の廃止を求める勧告を出しました。これは余りにもいきなりの話でございますが、だとしたら強制入院が必要な患者でも治療を受けられ暮らせる地域作りも必要となるのではないでしょうか。しかしそれにはより多くの資源や人材が不可欠で、その道のりはまだまだ先かといささか悲観的になってしまいます。
その長い道のりに繋がる一つとして皆さまもご存じの「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」いわゆる通称「にも包括」が掲げられるかと思います。当法人でも将来検討ワーキンググループ及び地域ワーキンググループでも検討されて来ています。そもそも「にも」とは失礼な表現で私は気に入りませんが、包括的な取り組みが実現していくのであればそれは地域の障害者の方々にとって喜ばしい話でございます。しかし現時点では介護保険のような大きな財源もなく地域の医療・福祉だけでどこまで包括的に取り組めるかはいささか不安もございますが、当法人はこの八王子地域で率先してこの事業に参入して行くべきと捉えています。この取組の基本的な部分はこれまで我々が駒木野病院を中心に地域で取り組んで来たことと概ね変わらないことかと私は思っています。今年もこの準備を更に進め、精神障害者の方々に安心して医療・福祉が提供できる地域作りに我々青溪会が貢献できることを目指して行ければと思っております。
病院及び地域各事業所、こころの訪問診療所いこま、訪問看護ステーション天馬、同じく天馬・北野事業所、グループホーム駒里、駒木野相談支援センターの皆様方と共に今年も地域活動を躍進させて行きたいと思います。
本年もどうぞ宜しくお願いいたします。
第53回日本看護学会学術集会
令和4年11月8日・9日
ニューロングステイ患者の退院阻害要因
令和4年10月26日に行われた第34回東京精神科病院協会学会にて、「ニューロングステイ患者の退院阻害要囚に関する調査」を演題発表する機会をいただきました。
当院での入院患者様126名か対象となる調査を行い、どのような要囚によって退院か阻害されているのかを明らかにし、長期入院者の解消と予防を適切に行う具体的取り組みにつなげる要素に関しての考察を報告
しました。
性別ではやや男性が多く最も多い病名は統合失調症、半数以上か病院所在地の患者であり、年代は50代が最も多く、次いで60代、40代となっています。生活保護受給者数の割合は高くはなく、調査時点での入院形態は匡燎保護入読が112名と多く任意入院か少ないです。
退院阻害要因のうちチェック割合が高かった大項目は「モチベーション」「住まいの問題」「病状の安定」「本人の社会生活能力」の4項目で、「本人の社会生活能力」の項目は多数のチェックがつくケースが特
に多くみられましたが、チェック数か少ないケースは5年未満の入院層
にはいませんでした。
退院阻害要囚全体としては、チェックが多かった(80%以上)大項目は「モチベーション」「住まいの問題」「病状の安定」「本人の社会生活能力」の4件で、特に「本人の社会生活能力」の項目は90%以上となっています。
個々のチェック数については20以下(チェック数16~20) が最も多く、長期化するケースは複数の阻害要因か存在することが明らかとなっています。
チェック数5以下の層は1年未満では割合としては多いですか、5年未満では見られなくなっています。3年~5年未満の層は10以下の層か割合としては多いです。
特にチェック数の多かった「本人の社会生活能力」を入院期間項目とのクロス集計でみてみると、3年未満までの入院期間にチェックかつくケースが多くみられており、3年未満の入院者は社会生活能力について重点的に支援を行う必要かあると考えられます。
会場では複数の示唆に富んだ質問屯いただき、大変良い機会をいただきました。
ソーシャルワーク科 新井山克徳
口演S-3-4
児童精神科病棟に入院する患児の長期の隔離に関連する要因
永石彩香・則村良
本研究は、児童精神科に入院をして隔離を受けた患児の隔離の長期化に関連する要因を明らかにすることを目的に、2012年8月1日~2020年7月31日までの期間の隔離者を対象に、短期群
と長期群の2群に分類して分析しました。
その結果、長期群は短期群と比べて入院から隔離闊始までの日数が長かったことが分かりました。
考察として、長期群は入院当初の入院拒否やホームシック等による衝動行為が要因の隔離ではなく、擾助者が患児を十分に観察し病理を理解したあとでの隔離であり、病理の根本的な治療のために隔離が長期化すると考えました。
そのため児童精神科の隔離時は成人の患者と違った隔離時のケア、倫理調整が必要と考えました。
ポスターS-11 -2
長期化している行動制限の最小化を意図して看護師が行う患者への言語的介入
濱尾千奢・山本祐子
本研究は、行動制限が長期化している患者に対して、梢青神科看護師が行動制限最小化を意図して行う言語的介入の内容を明らかにすることを目的に、臨床経験5年以上かつ精神科病棟での経験が3年以上の看護師を対象にインタビューを実施し、質的帰納的に分析しました。
その結果、言語的介入として8つのカテゴリー、27のサブカテゴリー、125のコードが明らかになりました。
考察として、看護師は言語的介入として患者とともに行動制限を目指し、患者を励まし、患者がもともと持つ力を奮起させる一方で症状のコントロールや対処行動の促しを行っており、行動制限最小化に重要な意味を持つと考えました。
さらに医療チームの中で、看護師が言語的介入において独自性を出すことが行動制限最小化に繋がると考えました。
患者様やスタッフ問わず 垣根なく多くの人がアートという 共通言語でつながる場 駒木野アート展
2022.11.17~11.18
駒木野グリーンホール
当日の様子
準備前の会場とレイアウトに悩むスタッフたち。
みんなで手作りした折り紙製立体の星も飾り付け。
60点もの作品が会場中に設置。
無事開催!
アート展開催
今年の駒木野アート展は「COLOR」をテーマに開催しました。
障害の有無にかかわらず、それぞれの個性(カラー)を活かした表現あふれるアート展を目指しました。
全部で60点の作品出展があり、200名を超える方に来場いただきました。
開催にあたってはレク委員会を中心に各部署からご協力いただき、準備片付け・当日の運営もスムーズに行うことができました。
特に新人スタッフの方にはコロナ禍でイベントが少ないこともあり、積極的に関わってもらえるようお願いをし、結果として良い交流の場になりました。
当日はアートを通じて様々な人の交流が見られ、出展した方も来場した方もともに力をもらえるようなアート展になったと思います。
コロナ等で開催が危ぶまれる事態もありましたが、出展し協力いただいた沢山の方々の想いで開催することができました。心より感謝申し上げます。
編集後記
私事ですが、先日日本精神病院協会の永年勤続の表彰を受け、明治記念館へ伺いました。3年ぶりの開催。丸テーブルに置かれたパーティションに戸惑いながらもやはりリアルでの対面は会話が弾み、楽しいひと時を過ごさせていただきました。この原稿を書いている今まさに第8波の到来。日々の感染者報告のニュースを毎日確認するのも日課となっていますが、それに翻弄されることなく日々、前向きな生活を送れることを願うばかりです。
リカバリー総合応援部デイケア科 科長 五島 さとみ