季刊誌 駒木野 No.205
思春期青年期病棟の開設へ向けて
駒木野病院 副院長 笠原 麻里

奥多摩の夕焼けと秋桜
今年度の事業計画の柱のひとつとして、C2病棟を改修し幅広い患者層を受け入れる機能変更、およびA5病棟の思春期青年期病棟への機能変更が挙げられている。現在、順次改修工事中であり、計画は着々と進行している段階にある。
このうちの思春期青年期に対応する病棟の開設について、まず、なぜそのような病棟が必要なのかと思われる向きもあろう。特に当院には、すでに小中学生を受け入れているA4病棟があるので、さらに子どもを増やすのか? と思われるかもしれない。実は、A4病棟を退院した後、あるいは中学を卒業した年代以降20歳未満の間に、精神状態の悪化あるいは環境不適応などで専門機関でのケアを必要としている方は少なくない。一般に、十代後半は統合失調症の好発年齢でもある。また、社会にうまく適応できない若者や劣悪な生活環境に置かれている若者(例えば、虐待、貧困、ヤングケアラーなど)が、うつや希死念慮を抱えたり、自傷、過量服薬などで苦しむことも少なくない。
十代後半はそもそも親離れして自立に向かう時期である、それなのに不調が生じると、発達課題がこなせないばかりか、家庭内での葛藤が生じやすく、穏やかな療養環境をえることも難しいのだが、社会には受け皿が少なく、ニードを満たされない若者たちは新宿歌舞伎町の‘トーヨコ’に代表されるような、安全ではない場所に向かってしまうこともある。精神科医療を必要とする若者たちが、安全に回復をめざすことができる環境は、求められている。
では、そのような若者のメンタルヘルスを支える有効な方策として、精神科入院治療はどのようにあるべきであろうか。精神疾患に関する、専門的な知識・技能が求められることは、成人の精神科と何ら変わりはないのだが、対象となる病態の相が少し異なるかもしれない。十代後半に生じる精神的不調には、先にも述べたように統合失調症は重要な疾患として挙げられるが、早期発症という特徴に留意する必要がある。うつ反応は多いが、双極性障害の顕在は多くない。他に、幼少期から有しているであろう発達障害の特性が、青年期の発達課題とともに新たな困難に発展していたり、発達障害はなくてもアイデンティティクライシスが高じて情緒障害や行動化を招く場合もある。そして、おそらく受け皿が最も乏しく医療のニードが高いのは、トラウマ関連症状の回復過程を支えることではないかと考えている。近年、小児期逆境体験があると、その後の精神衛生のみならず身体疾患、生活習慣まで幅広く影響を及ぼし、寿命さえ縮めることがわかっている。思春期青年期年代で、助けを要するということは、それ以前に何か逆境苦境があることはしばしばで、この点へのアプローチが、新しい思春期青年期病棟には求められると予測している。
このために、準備をして、有機的な病棟運営を行いたいと考える。一方、実際にオープンすると、予測の限りでない社会的ニードがあるかもしれない。求められる役割に応じることができるよう、柔軟かつ確実なスキルを身につけて取り組みたい。
駒木野懇談会 ~第54回記念大会~
8月17日に東京たま未来メッセにて駒木野懇談会第54回記念大会「夜明け ~新たな出会い~」が行われました。当日は86名の方が来場されました。
駒木野懇談会はアルコール依存症当事者、およびそのご家族を含む酒害者が回復を目指す自助グループです。
この駒木野懇談会の発足の経緯は『こぼとけ9月号(最新号)』の中で吉野先生が大変詳しく書いてくださっていますので、ご興味のある方はぜひアルコール外来より手に取っていただければと思います。
駒木野懇談会上原会長の開会の辞では、「アルコール依存症は関わる人すべてを巻き込む悲しい病でありながら、回復していく人は病気を言われる前よりも豊富で素晴らしい人生を送る不思議な病」という言葉が非常に印象的でした。
表彰対象者は全部で45名おり、最長表彰者は45年断酒を続けておられました。表彰者の挨拶では、どなたも断酒期間を「いただいた」と表現されており、回復の道は1人で切り開けるわけではないという意味が込められているように思いました。
体験談では当事者の方3名、ご家族の立場から1名の方にお話をしていただきました。入院中の病院とおさらばしたい一心でAAに参加し、「ミーティングに出続ければ必ず良くなる」と当事者だからこそ伝わる言葉が回復のきっかけとなったというお話や、「内科の医師からアルコール治療を勧められたが、当初は家族も全く知識がなく病気だと思っていなかった。駒木野病院のアルコール講習会に参加して、本人を治療につなげることが出来た」というお話から、治療の3本柱および普及啓発の大切さを改めて実感させていただきました。
今回記念大会を通じて、専門医療に繋がってもすぐに断酒できるわけではなくとも、繋がりつづけることで回復という夜明けに近づいていくということを感じる機会となりました。
今現在、酒害によって困難さや生きづらさを持っている方が、いずれ回復の道を歩いていくことをイメージしながら、これからもアルコール依存症専門医療機関として活動を続けていきたいと思います。
アルメック 精神保健福祉士
加藤 七菜
- 駒木野アルコール治療の足跡について
講演する吉野先生
- 当日の会場の様子
たくさんの方にご来場をいただいた
アルメック
入外問わずアルコール治療に関わる、多職種で構成される専門スタッフチーム。
アルコール治療は自助グループや家族との連携も重要であるため、院内に留まらず広く精力的に活動している。
第37回 東京精神科病院協会学会 発表報告
10月28日に東京精神科病院協会学会が開催
演題発表を行った当院の2名にスポットを当ててご紹介

当院では児童思春期患者の入院ニーズが高く、やむを得ず一般精神科病棟に児童思春期患者が入院となることも多い。
児童思春期臨床では近年、肯定的小児期体験(以下PCE)の研究が注目されており、PCE体験を増やすためには、安定した関係性を構築できる特定の他者の存在が非常に重要である。本発表では、SW・CP・Nsで構成される児童専門の多職種チーム「すこやか」が一般精神科病棟に散在する18歳以下の入院患者に対して行っている介入内容と対象者属性を後方視的に振り返る。
介入内容は、固定された枠組みや目的達成的な関わりよりも、遊びや散歩を手掛かりに関係性を構築することが中心であった。定期的に特定の大人と遊びの時間を持つことで、遊び中心から次第に会話の比重が多くなり、こどもが困りごとや気持ちを話すように変化する様子が見られた。すこやかが「病院内の安心できる居場所」となることで、彼らの治療継続や支援の享受に寄与することが期待できると考えられた。
複数病棟を巡回するデリバリー型支援は、限られたリソースでも実施可能なモデルであり、安全な関係基盤を築く有効な手段となり得ると考えられる。
※ ご本人が要約したものを許可を得て掲載しています

令和6年の診療報酬改定で、外傷体験に起因する症状を持つ患者への公認心理師による心理支援に「心理支援加算」が新設された。
本研究は制度導入前の2例(いずれも早期成人期女性)を対象に、メンタライゼーションに基づく心理支援の効果をロールシャッハ・テストの量的指標で検討した。結果、両例で症状の軽快や社会的適応の向上が見られ、意欲を示すFMの増加や対人被害感を示す「W-の顔反応」の消失が確認された。心理支援が意欲や対人関係機能を改善し、その変化をロールシャッハで捉えられる可能性が示唆された。
今後は症例数を増やし、診療報酬改定後の月2回の支援でも同様の効果が得られるか検証が必要である。
※ ご本人が要約したものを許可を得て掲載しています
東京精神科病院協会
昭和24年に精神医療の発展·向上を目的に結成される。25年10月現在、当院を含む都内60の会員病院で構成され「東精協」とも呼ばれる。
年に1度開催される東精協学会では様々な講演や研究発表が行われており、当院からも毎年多数の職員が参加している。
看護部新入職者宿泊研修
入職から半年が経ち、日々の業務を離れ同期と共に学ぶ宿泊研修を開催しました。研修ではパンフレット作り、カレー作りなどの時間を共有し、普段はあまり顔を合わせられない同期とも交流を深めることができました。夜にはリラックスした雰囲気の中で語り合い、悩みや喜びを率直に共有する姿も見られました。
座学研修では当院の基本的な知識を学び直すとともに、自分の看護観や日々の看護実践を振り返ることができました。
研修を通して、臨床の場では知ることのできなかった同期の強みや良さに気付き共有し、自分自身の新たな一面を発見する機会になりました。今回得た学びが研修生1人1人の更なる成長に繋がることに期待したいです。
看護部教育委員会 ファーストレベル担当 岡田 佳乃
C2病棟改修工事の様子
多機能病棟へ生まれ変わるべく現在改修工事を実施しているC2病棟の様子です。現在、解体工事が完了して、内装工事へ進む段階となっており、並行して配線工事や設備配管工事も進行しています。
食堂ホール南側の窓沿いに新たな病室(個室)12部屋が設けられます。207号室だった病室は北側エリアの食堂ホールとなる予定です。
- 新病室 界壁工事(壁構築)の様子
- 食堂ホール 解体後の様子
- 旧207号室 入口解体後の様子
編集後記
長く続いた猛暑が過ぎ去り光陰矢のごとし、もう年末になる。歳を重ねると時が短く感じるというが、それは「ジャネーの法則」というしっかりとした理論があるらしい。「50歳の人にとっての1年の長さは人生の1/50、5歳の人にとっての1年の長さは人生の1/5」、つまり1年というのは「自分の年齢分の1年」であり年を取ればとるほど短く感じるという理論のようだ。ただ、新たな経験や挑戦を行うことで時間を長く感じ充実感を得ることが出来るとされる。その法則からいうと新人は1年が人生の1/20程度に感じ、4月から専門職として新たな経験や挑戦をしてきたという要素を加味すると実に長い充実した1年になるということだ。なんとも羨ましい。
私は新人の何倍も時間の感覚は加速しているが、今年になって初めての出来事を多く経験し確かに時間は長く感じられた。私にとってこの感覚はこれからの時間の使い方を考えるきっかけになったような気がしている。
看護部 副部長 岸 珠江




